経営・税務のお役立ち豆知識

個人事業主のためのお得な事業承継税制

投稿日:2021年3月1日 更新日:

中小企業の廃業の大きな原因の一つに事業承継問題があります。後継者不足のほか、後継者候補はいるものの会社の株式などの資産を後継者へ譲りたいと思っても、贈与した場合の贈与税を払うだけの資金を捻出できないために、事業承継がうまくいかないケースもあります。この税金面での問題を解決するために、平成21年度の改正で初めて創設された中小企業を対象とした事業承継税制。その後、平成30年度の改正では適用を受けるための要件が大幅に緩和されたため、より多くの中小企業がこの税制を利用して事業承継をしようと検討したのではないでしょうか。
しかし事業承継問題は法人だけでなく、個人事業主にとっても同じく深刻な問題です。
そろそろ後継者に譲りたいけど、贈与税払わなきゃいけないし。そのような問題を抱えている事業主の方、個人版の事業承継税制をご存知ですか?

要件を満たせば、本来納めるはずだった贈与税が猶予、さらには免除となる制度です。この制度は令和元年度の税制改正により創設された比較的新しい税制です。令和10年12月末までの期間限定となっていますので今後事業承継をお考えの方、この機会にぜひ制度の概要をご確認ください。

どのような制度?

後継者が先代から贈与により事業用の資産を取得し要件を満たす場合には、その事業用資産の贈与に係る贈与税の全額が猶予されます。この猶予されている部分の贈与税は、後継者(二代目)が死亡したとき、さらに三代目に贈与したときに最終的に免除されます(注1)。したがって引き継いだ事業を行っている限りは贈与税を支払うことはありません。しかし引き継いだ事業を途中で廃業した場合(注2)には、猶予されていた贈与税を納めなくてはいけません

(注1)先代が死亡した際には相続税の納税猶予にかわるため、贈与税は免除となります。相続税の納税猶予は贈与税の納税猶予と同様に、後継者が事業を続けている間相続税が猶予され、後継者の死亡等の時点で相続税が免除となる制度です。

(注2)やむを得ない場合の廃業は除きます。障害者手帳の交付を受けた場合や破産手続開始の決定など。

この制度を受けるには?

後継者(受贈者)の要件
  • 贈与日に20歳以上(令和4年4月以後については18歳以上)であること
  • 「個人事業承継計画」を提出し認定を受けていること
  • 贈与日までの3年以上引き続き特定事業用資産に係る事業に従事していること
  • 贈与税の申告期限までに開業届を提出し、青色申告の承認を受けていること

※不動産賃貸業等の一部の事業は対象外です。

先代(贈与者)の要件
  • 贈与税の申告期限までに廃業届を提出すること
  • 贈与した年、その前年、その前々年に青色申告書を提出していること

上記のほか、猶予される贈与税額と利子税の額に相当する担保を提供する必要があります。

また継続してこの規定を受けたい場合には3年ごとに継続届出書を所轄の税務署へ提出しなければなりません。

対象となる資産

青色申告書の貸借対照表に計上されている下記の特定事業用資産が対象となります。

  • 宅地(400㎡まで)
  • 建物(床面積800㎡まで)
  • その他自動車などの減価償却資産

猶予された贈与税を納付しなければいけないケース

上記に記載した通り、基本的に後継者が事業を継続している限り贈与税は猶予されます。
しかし一定の場合、猶予された贈与税とそれに伴う利子税を納付しなければなりません。

贈与税の全額+利子税の納付をしなければならない場合

・事業を廃止した場合(やむを得ない理由以外の廃業)

・その事業に係る総収入金額が0になった場合
売上などの収入が全くなく事業の実態がないようなケースをいいます。

・青色申告の承認が取り消された場合
例えば、無申告や所得の隠蔽、帳簿の開示拒否、帳簿を作成していないなど悪質な場合には承認が取  り消されることがあります。

・継続届出書の提出がない場合

贈与税の一部+利子税を納付しなければならない場合

贈与を受けた特定事業用資産の一部を廃棄や売却した場合や事業用として使用しなくなった場合
※災害によるやむを得ない廃棄や、売却した代金で1年以内に新たに事業用資産を取得する場合には、納税猶予は継続されます。

最後に

今回は個人事業主版の事業承継税制について概要を確認しました。
先代から後継者へ事業用資産を贈与した場合に贈与税が猶予され、後継者が事業を継続していく場合には最終的に免除となるので、税負担を大きく軽減してくれる制度となっています。

今後も、事業承継について有用な情報をレポートしてまいります。

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